IT業界におけるシステム開発は、大手SIerに発注すれば安心だと思われがちです。
しかし、実際にそのシステムを手掛けるのは、彼らではなく、さらに下請けに回されたエンジニアたちであることが少なくありません。
この「多重下請け構造」により、品質や納期に影響が出るリスクが高まる一方、エンジニアたちは劣悪な環境で働くことを余儀なくされます。
本記事では、この構造の闇を明らかにし、発注者が知っておくべき現実について考察します。
大手SIerへの発注が大半!しかし、IT業界には多重下請け構造の闇がある
有名な話ですが、IT業界では「多重下請け構造」があたりまえになっています。
システム開発を依頼するとき、だれもが名前を聞いたことがある大手SIerにお願いすることが多いでしょう。
発注する側は「安心」を材料に大手SIerに依頼をしますが、受注したあとは大手SIerは下請け会社に開発依頼をし、その下請け会社はさらに自社の下請け会社やフリーランス・登録派遣に開発依頼をするケースが多いのが実情です。
また、「下請け」という言葉のイメージがよくないからか「協力会社」や「パートナー会社」と呼ぶことが一般的です。
多重下請け構造の図解
このように受注した仕事は次々に下請けへ投げらます。
大手SIerはお客様との折衝やPJを管理したりと何もしないわけではありませんが、実際に開発しているのは赤枠の下請けの人たちというのが実情です。
なぜ?IT業界の多重下請け構造の発注者視点の理由は「儲かるから」
なぜIT業界では多重下請け構造が蔓延しているのでしょうか?
発注側だけに焦点を絞っても理由はいくつかあります。
まず、ひとつめは、受注したいけどリソースがないため、つまり社内に必要なスキルを持つ要員がいなかったり、プロジェクトに入れる空き要員がいないということです。
「人手不足だけど売り上げほしいから受注はしたい。そうだ、他社に手伝ってもらおう」という発想にいきつくわけです。
これの考えが大手Sierにも協力会社にもあります。
この理由を一言でいうとするならば、儲けたいから、です。
ふたつめは、自社のリソース、要員を割きたくないためです。
人数を少なく抑えることで、自社の要員は別のプロジェクトで稼ぐことができます。
作業自体は協力会社に頼んで自社要員はマネジメントとして少ない稼働にすることで、プロジェクトを複数回せることになります。
この理由を一言でいうとするならば、儲けたいから、です。
みっつめは、受注した額より少ない額で協力会社へ依頼することで浮いた分がマージンとして利益になるためです。
たとえばお客様から100万円でもらった仕事を自社で開発した場合に人件費を90万円を使うと10万円の利益が出ます。
ところが、下請けに70万円で依頼すると、成果物は同じなのに30万円の利益が出ることになります。
この理由を一言でいうとするならば、儲けたいから、です。
※実際にはここまで単純かつ丸投げではありません、あくまで仕組みの話です。
そう、つまりは外注すると儲かるんです。
これが自社でやらずに下請けに発注する理由になります。
会社の存在意義のひとつとして利益の追求があるので、それ自体は悪いことではありません。
なぜ?IT業界の多重下請け構造の下請け視点の理由は「儲かるから」
それでは、下請け側は発注元が儲かるためだけに下請けをやっているのでしょうか?
そんなはずはありません。しっかりとした理由があります。
ひとつめは、単純に仕事が取れないためです。
本当は100万円もらえるはずの仕事を70万円、50万円と目減りした金額で受注しなければいけないことは理不尽だし、悔しいですよね。
しかし、お客さんは知名度も実績もある大手SIerに依頼することが多いですが、中小企業のほとんどのSIerは名前すら知られていません。
知らない会社よりも知っている会社に頼みたくなるのは当然です。
たとえば、セブンイレブンと謎の個人商店が並んでいた場合、同じ商品を買うならセブンイレブンを選ぶ人が多いと思います。
なぜでしょうか?
・全国チェーンだから
・なじみがあるから
・有名だから
つまり、「安心だから」ではないでしょうか?
人はネームバリューがあるとそれだけで安心します。
下請け企業には、それがありません。
結果的にお客様に選ばれません。お客様に選ばれないと仕事がありません。
となると、仕事をもらうためには直接お客さんからもらうのではなく、下請けとして大手SIerなどから発注してもらうしかないわけです。
「下請け企業を脱却したい」
こうした会社はなんとかネームバリューを強くしようと、自社のサービスを展開したり、奮闘していますが、なかなか難しいのが現実です。
ふたつめは、あえて下請けというビジネスモデルをやっているためです。
意図的に下請けとしてのビジネスをしているケースになります。
直接お客様の業務にかかわるということは非常に大きな「責任」があります。
「責任」があるということは「リスク」もあるということです。
下請け企業にも当然「責任」と「リスク」はありますが、お客様から直接受注しているかしていないかでその重みは雲泥の差です。
もしプロジェクトが失敗したときに、外注していようが、新聞やテレビで報道されるのは受注した大手SIerの名前です。
会社のブランドイメージも損傷しますし、小さな会社だとそれが社の存続にも影響します。
そんなリスクを避けるために「売り上げは目減りはするけど、下請けとして甘んじている」という企業も多いのです。
IT業界の多重下請け構造の闇は安心を買って大手に依頼してるのに知らない会社が作ってること
IT業界における多重下請け構造の問題は、システム開発の依頼者にとって深刻な課題となっています。
多くの企業が安心を求めて大手SIerにシステム開発を依頼しますが、実際にそのシステムを構築しているのは、発注先の大手SIerの社員ではない場合が多いのです。
大手SIerは受注した案件をさらに下請け企業に委託し、その下請けがさらに別の企業に仕事を回す、という多重下請け構造が存在します。
その結果、システム開発の品質や納期が下請けの技術力や管理能力に依存することとなり、期待した結果が得られないリスクが生じます。
また、この構造の中で働くエンジニアたちは、過酷な条件で作業を強いられることが多く、業界全体の労働環境にも悪影響を与えています。
依頼者にとっては、表面上の安心感とは裏腹に、知らない企業が自社の重要なシステムを構築しているという現実を理解し、適切な管理と監視が必要です。
「そんなバカな!だったら下請け会社に直接お願いした方が、安く済んで良いし、リスクも減るのでは?」と思うかもしれません。
しかし、中小企業にはお客様との折衝をするノウハウがないことも多いので、「そもそも受け入れていない」企業もたくさんあります。
また、数多ある中小SIerの中からどの会社を選べばよいのか、どの会社にスキルがあって安心して発注できるのか、その調査にかかるコストは少なくありません。
結局、作る人違っても責任取るのは大手SIerだし、管理はするだろうから大手に頼もうという思考になってしまいがちです。
お客様は大手に発注するしかなく、中小企業は大手から仕事をもらうしかないというジレンマですね。
まとめ
「大手に頼んだシステム」でも実際にプログラミングをしている人たちは名も知らぬ会社の人たちであることが多々あり、その人たちの名前が表にでることもありません。
大手SIerが悪なわけではなく、「勝ち組」なだけです。
下請けが悪と言っているわけでもありません。
ただ、そういう人たちがいることででこの業界が成り立っている、つまりは世の中が成り立っていることを知ってほしいのです。
近年は自社サービスを頑張っている会社も多いですが、まだまだ下請け企業としての会社の方が多いのが実態だと思います。
以上、最後までご覧いただきありがとうございました。