IT業界における多重下請け構造の闇の一つとして、偽装請負という名の違法行為が横行しています。
この問題は、業界全体に深く根付いており、多くのエンジニアが知らず知らずのうちに加担している現実があります。
本来、法律で禁止されているはずの偽装請負ですが、現場では黙認され、結果的にエンジニアたちの労働環境が悪化しています。
「コンプライアンス」は「コンプラ」と略されることもあり、「法令遵守」という意味で、
平たく言うと「法律守って仕事しようぜ!」ということです。
本記事では、IT業界ではあたりまえになっているコンプラ違反の実態をお話します。
コンプラ無視!多重下請け構造?偽装請負?元請け会社と下請け企業には契約が必要
まず以下の記事をご覧になっていない方は、是非ご覧ください。
記事の中で説明しているとおり、IT業界では「多重下請け構造」があたりまえになっています。
では、下請け企業への発注を決めた場合に、行うことは何だと思いますか?
もちろん、いきなり「この作業をお願い」と丸投げするわけにはいきません。
どのような条件で、どんな作業をするのかを双方合意した上で決定する必要があります。
つまり「契約」が必要です。
この「契約」の形態は、3つの種類があります。
法律で決まっているので、内容をしっかり確認して締結し、必ず守らなくてはいけません。
ところが、実際には全然守られていません。
それどころか契約形態について全く知らず、コンプラ違反であることすらに気づいていない人も大勢いるのが現状です。
それでは、それぞれの契約形態についてみていきましょう。
派遣契約
労働時間を提供する。いわゆる「人貸し」。作業を完了させる責任はない。発注者が作業指示を出すことがOKで、その人を好きに使ってよい。
請負契約
明確に作業範囲が決めて、業務の全部または一部を委託する。受注側は作業を完了させる責任がある。
発注者が作業指示を出すのはNG。何人でやるのか、どう作業をするのかは受注側の自由。
準委任契約
労働時間を提供する。いわゆる「人貸し」。作業を完了させる責任はない。発注者が作業指示を出すことがNG。どう作業をするかは受注側の自由。「SES契約」とも呼ばれる。
※SESについてはこちらの記事でも扱っています。
それでは、どのようなケースの場合にどの形態を選ぶのか、例をあげてみましょう。
「人を借りたいけど、自社の社員と同じように好きに使いたい」場合は、派遣契約
「決まってる作業だけ完成させてもらいたい」場合は、請負契約
「人を借りたい、発注先の裁量でいいから自社に常駐してほしい」場合は、準委任契約
どうでしょう?イメージできたでしょうか?
もう少し簡単に、レストランを例にして説明してみます。
「ほかのレストランのシェフを借りて、指示したものを何でも作らせたい」場合は、派遣契約
「ほかのレストランのシェフに、ティラミスを100個作ることを任せたい」場合は、請負契約
「ほかのレストランのシェフを借りて、デザートは先方の裁量で任せたい」場合は、準委任契約
いかがでしょうか?なんとなくイメージをつかむことはできたでしょうか?
コンプラ無視!多重下請け構造?偽装請負?二重派遣の禁止
法律で二重派遣は禁止されています。
ようするにエンジニアの又貸しです。
前述のレストランを例にすると、
「AレストランがBレストランのシェフを借りる」という内容で派遣契約をしているとします。
しかし、Bレストランは貸せるシェフがいないため、Cレストランから派遣契約で借りたシェフをそのままAレストランに貸したとしますが、これが二重派遣でNG行為となっています。
でもさすがにコンプラに厳しいこのご時世、堂々と二重派遣をやっている会社なんてないと思います。
コンプラ無視!多重下請け構造?二重派遣で違法にならないための偽装請負という違法
ここで登場するのが、偽装請負です。
請負契約はどう業務を進めようが請けた側の自由です。
決まった作業を完成させることができるなら、外注に投げようと、100人使って終わらせようと構いません。
進捗報告も本来はする必要ありません。
それを踏まえて「あ、じゃあ請負や準委任契約で常駐してもらって、派遣みたいに好きに使えばいいんだ。」
という謎の発想を具現化したものが「偽装請負」で、常態化してます。
最初にひらめいた人は一体誰なのでしょうね…。
コンプラ無視!多重下請け構造?偽装請負?指揮命令権の実態
請負でも準委任でも、発注元に指揮命令権はありません。
しかし、実際に客先常駐をしてみると、発注元の社員から当たり前のように色々指示をされたり、管理されたりします。
労働時間も自社のルールでOKなので、自社が10:00~18:00、常駐先が9:00~17:00の勤務ルールだとしても、自社の勤務ルールで問題ありません。
しかし、これも常駐先に勤務時間を合わせているケースが非常に多いです。
コンプラ無視!多重下請け構造?偽装請負?1人常駐の禁止
SES契約では、発注者が作業指示を出すことが出来るのは、委託先の管理者のみです。
委託先内で実際に誰が何をどう作業していくのかの指示は、委託先の管理者が決めることになっています。
つまり、SES契約は管理者と作業者の最低2人は必要ということなので、必然的に1人で客先常駐することは禁止となります。
しかし、実際には1人で客先へ常駐することがたくさんあります。
発注側も1人分の労働力がほしいのに、2人分の費用を出したくないですよね。
受注側も2人は無理だからこの話はナシで、と言われてしまうと仕事がなくなるため困ってしまいますよね。
利害関係は一致してしまっているのです。
また、こんなケースもあります。
契約上は管理者が1人、作業者が1人の場合、法的に問題はありません。
でも管理者が管理者として機能していないことがあります。
2名とも発注元から直接指示を受けていて、実際には管理者0人、作業者2人の状況になることも当たり前になっています。
もちろん違法ですよ。
コンプラ無視!多重下請け構造?偽装請負?改善はしないのか
ならないでしょうね。
前述しましたが、現場の人間は知らないことも多いです。
ただし、会社の上層部同士は間違いなく知っています。知っているうえで黙認しています。
いったいなぜこんなことが起きるのでしょうか?
Win-Winの関係が築けてしまっているためです。
発注側は有利な条件で仕事を外注したい。
受注側は発注元に嫌われたくないし、売り上げもほしい。
損する人は誰もいません。ただ違法なだけです。
圧倒的に損しているのは受注側、つまり下請け企業なのですが、そんな下請けにもメリットはあります。
それは「再委託ができること」です。
派遣の場合は、再委託(さらに下請けに外注すること)をすると二重派遣で目に見えて違法になりますが、契約上、請負やSESの場合は再委託OKです。
さらに下請けに外注して人を借りて、発注元に提供することで、社内のリソース(人の数)を減らさずに、差分で儲けることができるということです。
実態はただの二重派遣なんですけどね。
これではWin-Winの関係が崩れそうにありませんよね。
いつまでたっても、多重下請け構造と偽装請負の闇は続く要因のひとつとなっています。
まとめ
正直、私も感覚がマヒしてしまっていますが、IT業界がブラックというイメージが世間から消えない理由のひとつだと思っています。
最近は昔よりも厳しくなって減ったきたようにはみえますが、まだまだあたりまえのように偽装請負は存在します。
以上、最後までご覧いただきありがとうございました。